雪が降る白い街で、あたしは携帯を片手にバスに乗り込む。


その記憶は、今じゃもうすっかり消え去った過去のこと。

当時まだ二十歳だったあたしは、人の迷惑を考えたことが無くて、

基本自己中でワガママで…どうしようもない性格だった。



「あ、有唯くん?トモだけど、今バスに乗ったよー。

…え?うん…うん。あー、二時間後くらいにそっち行くかなぁ。

雪降ってて寒いから、有唯くん駅まで迎えに来てー」



静かなバスの中で携帯を片手に大声で話すあたしに、他の乗客が迷惑そうにあたしの方を見る。

でも、そんなことは気にしない。

あたしは、当時の彼氏だった“有唯くん”にそう連絡を取っていた。



『…携帯電話のご使用は、他のお客様の迷惑となりますのでお止め下さい』



あたしの言動を見兼ねてか、バスの運転手がそう言ってあたしに注意をする。

けど…



「あ、有唯くんちょっと待って」



あたしは聞こえていないフリで、ついさっきまで一緒に遊んでいた女友達に窓越しに手を振ると、窓を開けてその友達に言った。



「亜衣ー!またメールするねー!」