もちろん、俺は戸惑っていた。

声優という仕事のことは、まるで意識したことがなかったからだ。

一方で、自分の特長が声であると、プロから指摘されたことが驚きであり、喜びでもあった。

プロが魅力的だと言ってくれているのだから、その道にチャレンジしてみれば、何か新しい道が拓けるかもしれない。

何より、身長やルックスを気にすることなく、演技を続けていけるというのが魅力的だった。


「……やります。やらせてください。」


しばらくの逡巡の後、俺は林さんに頭を下げていた。


これが、俺の何度目かの運命の分岐点だった。