何故、自分がこんなにも嵯峨さんに詳しいのかと言われれば、俺自身、1回も嵯峨さんいお会いしたことがないからだ。

今回、原作者の御厨先生と顔を合わせるきっかけともなった、BLコミック『Lonely Lovers』(通称:ロンラバ)は、過去2枚のドラマCDを出しているが、いずれも嵯峨さんの要望で別録り(註:役別に台詞の収録を行い、編集で合わせること)になってしまった。

ベテラン声優からの別録り要請ということで、避けられているのではないかと余計な勘ぐりをしそうになったところ、色んな人から「嵯峨さんはいつものことだから」と、あれこれ助言された結果の知識である。


名刺を片手にぼんやり立ち尽くしていると、今度は御厨さんが間に割って入ってきた。


「『戦リプ』では片倉小十郎役を演られてますよね?!私、あのゲームで戦国に大ハマりしちゃって―――」

「立ち話もなんですから、座ってお話しませんか?」


その存在をすっかり忘れられていた篠田さんが、引きつった笑顔で声を張り上げた。

そもそも俺が時間ギリギリに顔を出したことに腹を立てているに違いない。


「そうですね。先生、一旦席に戻りましょう」


御厨さんが小早川さんに促されて、しゅんと肩を落とす。

本当に、まだまだ話足りない様子だ。