――――翌日。


真下さんの会社の近くで、勢いに任せるまま盛大に告白をぶちかまし、愛でたく結ばれた――――はずだ。



《真下さんが好きなのは俺の声だけですか?》

《中身付きじゃ駄目ですか?》

《せめて声からだけでも――――》



声からだけでも付き合ってくれと言ったのは、確かに自分からだ。

そしてその台詞を遮ったのは、他でもない真下さん自身な訳で。



(……でもなぁ……)




残念ながら真下さんの口から直接"好き"という言葉を聞けていないのが現状だった。

それで一年もの間、逢えたのは数回だけ。

それもデートと言えるようなロマンチックな雰囲気のモノではなく、ファミレスや居酒屋で飲み食いしただけの、簡単な"会合"に過ぎなかった。



声優のランクにある最下位部分、モラトリアム期間であるジュニアの最終年度であった為、昨年は『ビリケン!』以降、怒涛の仕事量だったのだ。

今年の四月に、晴れてジュニア期間を終え、正式なランク入りを果たす訳だが、1,000円とは言え単価が上がる為、ほとんどの声優はそこで仕事が激減する。

『ビリケン!』で運良く顔と名前を売ることが出来た俺は、とにかく薄利多売で実績を作ることを求められたのだ。


その実績とやらが上手く機能しているかどうかは、実際四月を過ぎてみなければ分からない。


その為、保険であるコンビニのバイトも辞める訳には行かない状態だ。