「これで契約完了だな」

「うん」

 きつく握り合っていた手から、少しだけ力が抜ける。

「あとは略式でいいんだよな?」

 シンは眩しい光に手を翳し、目を細める。

「うん。魔力、減らさないようにするには、召喚陣、いるけど……」

 リィの顔は徐々に下へ向けられていく。

「そんな暇あるかよ、戦ってるときに。母さんが無詠唱で召喚しても父さんは対応するってんだから……勝つためにはダラダラ唱えてらんないだろ」

「……うん」

 リィは手の甲で目をゴシゴシした。

「シン……ねむい」

「ん? ああ……眠い?」

「うん……つかれた」

 普段から眠そうなリィの目は、今にも瞼がくっつきそうになっている。繋いでいる手からも完全に力が抜けてしまって、今にも倒れそうだ。

「しょうがないなー。ルーのとこまでおんぶしてやるから。ほら」

「ん……」

 リィはフラフラしながら屈んで背を向けたシンにペタリとくっつく。そのまま力なく身を預ける妹を背負うと、神木の根に置いていたオイルランプを掴み、黒石の床を這う太い根を避けながら歩いて行った。