「僅かですが、困らない程度の靴はご用意いたしました。他に入用のものがございましたら、専属執事やメイドに言付けくださいね。もちろん、私に直接言っていただいても構いません」

 僅かな困らない程度、と琴音は言った。

 だが、この数はなんだろう。

 靴のサイズは両親が伝えていたのだろうか──ちゃんと2人に合わせた靴が、棚に綺麗に並べられていた。シューズから、ブーツから、サンダルから。2人合わせて100足はあるのではないだろうか。

「……シン、この星の人たち、感覚がおかしい……こんなに靴は必要ない……」

「あー、たぶん、ルーみたいな家なんだよ、ここ。貴族だって言ってたじゃん。全部がこうじゃないだろ、きっと」

 双子はヒソヒソと小声で囁く。

 貧乏な旅をしていた2人は、初めてミルトゥワの皇城に招かれたときの衝撃を思い出した。それに近いものがあるな、と納得する。


「それでは、ウェルカムドリンクを飲みながら執事とメイドをご紹介しますね。こちらへどうぞ」

 エントランスを右側に進み、その先の明るい廊下を進んでいくと、執事が部屋の扉を開けて待っていた。

 その扉の影から、小さな男の子がひょこっと顔を出す。少しクセのある茶髪の、くりくりと丸い目をした愛らしい少年だ。

「琴音ちゃん、この人たちが今度うちに住む留学生?」

「そうですよ、ご挨拶してくださいね」

 琴音が微笑みかけると、少年はとととっと琴音に駆け寄り、その後ろから顔だけ出すようにして恥ずかしそうにした。

「えっと、こんにちはっ。僕、橘玲音っていいます。8歳です」

 白い頬を染め、上目遣いに挨拶をする玲音。