橘家当主である和音の娘、琴音の案内で橘邸に招き入れられたシンとリィは、玄関を入ったところでさっそく戸惑った。

「靴を……脱ぐ!?」

 先に靴を脱いで家の中に上がった琴音は、ふわふわして柔らかそうなスリッパに足を入れて振り返った。

「はい。この国では、家ではスリッパという、このような履物に履き替えるのです。家によっては裸足のままの方もいらっしゃいます」

「へぇー……」

 建物の外観は皇城や自分たちの住んでいた離宮のような造りなのに、習慣が違うらしい。

 留学という名目上、この国の習慣を学ぶのも勉強のうち。

 メイドたちがシンとリィのスリッパを出してくれたので、2人は戸惑いながらも玄関に置いてあったベンチに座り、ブーツの紐を解いた。

 そうしてスリッパを履いて、改めて家の中を見回す。

 玄関を入ってすぐの広いエントランスは3階までの吹き抜けとなっていて、窓から入る明るい日差しが壁や床に反射してとても明るく開放感があった。

 視線を上から下へ戻せば、床の大理石に合わせたアイボリーとバーリーウッドの上品な色合いの階段が正面に伸びていた。それは左右に分かれて2階へと続いている。

 2階の廊下がエントランスをぐるりと取り囲んでいるのを眺めていたら、琴音に呼びかけられた。

「後ほど改めて屋敷をご案内いたしますが、まずは、お2人のシューズクローゼットはこちらになります」

 玄関脇にある白い扉をメイドが開ける。

 その先には小さな部屋が続いていた。小さな、と言っても6畳ほどはあるのだが、この広いエントランスを見た後では犬小屋程度にしか見えない広さだ。
 
 そこには棚がしつらえてあり、今さっき脱いだ2人のブーツも、メイドによってここに並べられた。