伸し掛る圧力。

 それに身体がバラバラに引き裂かれそうで、2人はお互いの手をぎゅっと握り締めた。

 精霊や魔は『真名』を決して他には漏らさない。それは自分だけのもの。自分だけの力。それを分け与えた人間だけが、女王たちを使役することが出来る。

 光の渦に呑み込まれた2人の脳内に直接響いてくる、歌うように美しい声。

 彼女たちの真名が心の奥に届けられる度、水面に波紋が広がるように力が身体中に漲っていく。

 再び召喚陣の星が回りだし、真名を届けた精霊から還っていく。円陣に色が吸い込まれていくたびに、身体に掛かる圧力が和らいだ。

《我らを喚ぶときにはこれまでと同じく、精霊名を使え。そなたらの中に入った真名がそれに同調し、我らを喚ぶ》

「分かった」

《しばらくはお前たち2人で喚ぶのだぞ。お前たちはまだ未熟だ。成長するまでは必ず2人でだ。解ったな》

 ふわりと風が舞い、それが赤髪とハニーブラウンの頭を優しく撫でた。心配されているようだった。

「はい」

 最後の色が召喚陣に吸い込まれると、辺りは再び闇に沈んだ。

 床に足がついている感覚がない。どこを向いているのか分からない。自分たちも一緒に闇に沈んでしまったのか──そんな不安に襲われそうになったとき、ガコン、と音がした。

 見上げると、神木の梢から、幾筋もの光がすうっと差し込んでくるのが見えた。

 天井が開放されたのだ。

 どういう仕組みなのか分からないが、古代文明の遺物であるこの建物には、今の文明では解明できない仕掛けが施されているらしい。

 契約の儀式開始時には闇となっていたのが、終了と同時に天井が開き、黒石の壁が畳まれるように縮んでいく。

 しばらくガコン、ガコンと音を立てていた黒石は床下に吸い込まれ、半透明のドーム状の壁だけが残った。

 身を包む光に、ほう、と息をつく。

 濃い緑色の葉に光を受ける神木ユグドラシェルも安堵している。……そんな風に見えた。