深い眠りにあったシンは、とんとん、とんとん、と肩を叩かれた。

 酷く息苦しくて、低く唸りながら目を開けると、目の前にどんよりとした空気を背負った恨めしげな少女の顔があって、心臓が胸を突き破って飛び出していきそうになった。

 死んだ人間が地の底から這い出てきて、恨み辛みを晴らそうと襲いかかってきたのだろうか。

 そういえば息苦しいし、身体が動かない。

 シンは震え上がった。

 精霊のような自然や物の化身は平気だけれども、幽霊に対しては免疫がない。だって幽霊は大抵、怨念の塊だ。子どもにとっては理解しがたい感情が具現化したもの。怖いのは当たり前だ。

 幽霊は母も怖がっていた。幼い頃はリィと3人で、震えながら夜道を歩いたものだ。父だけは、母が珍しく自分から抱きついてくるものだから、幽霊大歓迎、どんと来い、だったけれども。

 そんなこんなで幽霊が怖いシンは、思わず悲鳴を上げそうになって、その声を辛うじて飲み込んだ。

 良く見れば、それは白いフードをすっぽり被ったリィだった。影になって顔色が悪く見えていただけで、いつもの愛らしい顔がそこにある。彼女は落ち込んだ様子でシンの上に跨っていた。……通りで息苦しくて身体が動かないはずだ。

「なんだよっ」

 妹に何を驚いているのだろうと、心臓を打ち鳴らす自分を恥じながら首だけを擡げる。リィはゆらりと翡翠色の瞳を揺らした。