そこに真っ黒な長いコートを着た、黒髪の男が座っていた。赤い瞳を鈍く光らせた、長身でがっしりした体躯の青年だ。その背には見事な黒い翼が広がっている。

 現在唯一、フェイレイたちの味方となっている魔族の青年の身柄は、皇宮や各国首脳への体裁から、世界平和維持機関ラルカンシェル、通称ラルクの預かりとなっている。

 千年にも及ぶ抗争を繰り広げてきた魔族が、人、しかも魔王を倒した勇者に何故力を貸してくれるのか。その理由は15年前に直接対峙したフェイレイと彼だけが知っている。

 個と個の繋がり。そこから道を広げていきたい。

 彼とフェイレイの関係は、人と魔族の講和への道、その大切な一歩だ。


「クード」

 フェイレイは立ち上がり、彼の名を呼ぶ。名といっても、精霊と同じで魔族も真名は明かさないから、通称ということになるが。

「待たせてすまなかった。もうすぐ出発出来そうだ」

「そうか。では旅立ちの日にまた呼べ」

 淡々とした、無愛想な低い声が響く。

「よろしく頼みますね」

 ローズマリーの声にクードは何の反応も示さず、バサリと翼を羽ばたかせてバルコニーから飛び立っていった。

 今日の訪問は、子どもたちとの決闘を見守りに来たのかな、とフェイレイは笑みを零す。無愛想だけれども、情に厚い魔族なのだ、彼は。