抉られた地面、なぎ倒された木々、壊れた窓、一部欠けたバルコニー。悲惨な状態の庭と塔を見て、フェイレイは頭を掻いた。

「あー……これ、ヤバいかなー……」

 リディルが守りの壁を広げる前に、すでに庭はボロボロだった。

 ここは自分の城ではない。しかも神聖なる皇宮。疲労を残したフェイレイは緩慢な動きで立ち上がり、どう謝ろうか思案する。

「……そうだね。怒ってるみたい」

 芝生の上に座ってシンとリィの頭を膝に乗せているリディルは、フェイレイの後ろをぼんやりと見ていた。

「え?」

 聞き返すのと同時に、側頭部に凄まじい打撃を受けた。激しい痛みと目眩に襲われるも、少しよろけただけでなんとか堪える。すると、今度は脳天に鋭い踵落としを食らった。

 めきょっ、と音がした。

 これは頭頂骨が陥没したぞ、と思いながら地面に突っ伏す。

「チッ、生意気な。一度で倒れやがれ」

 ドスの効いた女性の声が、ぼそりと聞こえてきた。

 世界を救った勇者に対して、物音を立てず、気配すら察知させずに攻撃してくるような人物は一人しかいない。

 頭の痛みよりも恐怖で動けなくなったフェイレイの背中に、ぐさりと鋭いものが刺さった。

「あぁ、もう……私の愛しいダーリンの御座すこの宮殿で、一体何をなさっているのかしら、勇者殿は?」

 最初の低い声とは別人のような、春風のごとき柔らかな声が響く。

 ぐりぐりと穴を開ける勢いで背中に突き刺さるものは、恐らく靴のヒールだろう。春風のような声とは裏腹に、冷たすぎる殺気がフェイレイに降り注ぐ。