お前たちを危険な旅には連れて行けない。

 だからここで負けてやるわけにはいかない。

 子どもたちの頭から離れたフェイレイの拳が、シンとリィの鳩尾を捉えた。もう限界を超えている小さな身体は、呆気なく崩れていった。それを両腕に抱え、フェイレイは座り込む。

《世話のかかる親子だな》

 風の女王が微笑む。

「ありがとう、グィーネ」

《なんの。お前にはいつも驚かされる。だがそろそろ無理はするな。30年も生きた人間は最盛期を過ぎているだろう》

「年寄り扱いするなよ。俺はまだ現役だっ!」

《ふふ、まあ、お前は死ぬまでそうかもしれんな》

 むっとするフェイレイに、風の女王は鈴の音のような笑い声を響かせる。

 そうして柔らかく親子を包み込んだ風は、ふわりと消えていった。召喚者が意識を失えば、女王はここに留まることは出来ないのだ。

 頬を撫でる風が、やがて柔らかな白い手と変わる。

 ハニーブラウンの長い髪を靡かせたリディルが、穏やかな顔でフェイレイの顔を包み込んでいた。

「お疲れ様」

 リディルは微笑むと、フェイレイの抱える子どもたちを、彼と一緒に包み込んだ。包み込まれた3人は、更に白い光に包まれて、優しい陽だまりの中にいるような心地の中、傷を癒されていく。


 菫色だった空は薄い青空に変わっていた。

 やがて塔の向こうから顔を出した朝日が、柔らかく辺りを照らしていく……。