とん、と軽い衝撃があった。

 振り返ると、拳をローズマリーの背に当てたシンは、そのままグラリと横に倒れた。片足を出して何とか踏ん張ったが、膝をついてそのまま動けなくなってしまった。

 けれども顔を上げて。

 しっかりとローズマリーを見据えている。

 リィも同じだ。

 ローズマリーの腰にしがみついたまま、動かない。けれども抱きつく腕の強さに、ちょっとやそっとでは離れないという、強い意思を感じた。

「……強くなりましたね」

 ローズマリーはふっと力を抜いて、リィの頭を撫でてやり、シンへ優しい目を向けた。

「幻歩を使いましたね。全身からすべての力を抜いて、足を動かさずに……いえ、動いていないかのように見せて、相手の懐に飛び込む。そして、目の前に気配を置いたまま、高速で背後へと回り、一気に攻撃を仕掛ける。……まあ、最後の詰めは甘かったようですが。よくこんな技を身に着けられましたね」

「……ししょう、が」

「この世界の剣の師匠ですね。話は聞いていましたが、余程の手練れなのですね」

「……一度も、勝ったこと、ない」

「そうですか。これからもその師匠に師事して、更に技を磨くことです。こんな中途半端な形では使えませんよ」

「わかって、ますよ」

 途切れ途切れになる息をぐっと呑み込み、シンは強い瞳をローズマリーへ向けた。

「それで、俺たち、合格?」

 ローズマリーはクスリと笑った。

「ええ。文句なしの、合格です。一年でよくここまで成長しましたね。貴方たちの望み通り、貴方たちの要望はきちんとこちらで……あら」

 グラリとシンの身体が傾く。同じく、ローズマリーを捕まえていたリィからも力が抜け、2人同時に地面に倒れた。

 意識を失ってしまった2人だが、『合格』の言葉を聞けたおかげで、とても満足そうな寝顔だった。