その光景を、ローズマリーは覚えていた。
禍々しいまでに強烈な覇気。全てを呑み込む圧倒的な力。渦巻く闘気の中で、燃えるような赤い髪が踊っていた。
あの時と同じだ。
フェイレイが『勇者の血(ランスロット)』に目覚め、暴力的な力を振りかざした悪夢のひと時と。
けれども決定的に違っていた。
静かなのだ。
彼の上げた咆哮も、飛んできた衝撃波も、リィを放り出し、全力で防御しなければならないほどの力強さだった。
なのに、シンが纏う空気は不気味なほど静かだ。
深海色の瞳は確かに燃えるような闘志に溢れているのだけれども、そこに熱を感じない。
彼は、“無”だった。
シンは身体すべての力を抜いて、一歩、踏み出す。その姿が、陽炎のように揺らめいて見える。
その次には、もう、目の前にいた。
ゆらりと、まったく力の入っていないような足取りで、ローズマリーの懐に飛び込んでいた。それを捕まえようと手を伸ばしたけれど、それは虚しく空を切る。確かに目の前にあった気配は、一瞬のうちに霧散していた。
ローズマリーの背筋が冷たく震えるのと同時に、背後に気配。
今の今まで懐にいた弟子が、背後にいる。
どうやってすり抜けた。
まったく見えなかった。
気配すら感じなかった。
だが、最後の最後で幻影のような歩法が乱れたらしい。一直線に背後に迫る攻撃は余裕でかわせる──はずだった。
「最後まで、あきらめ、ない……」
いつの間に起き上がったのか、リィがローズマリーの腰をしっかりと捕まえていた。シンの拳はそのままローズマリーの背に──。
禍々しいまでに強烈な覇気。全てを呑み込む圧倒的な力。渦巻く闘気の中で、燃えるような赤い髪が踊っていた。
あの時と同じだ。
フェイレイが『勇者の血(ランスロット)』に目覚め、暴力的な力を振りかざした悪夢のひと時と。
けれども決定的に違っていた。
静かなのだ。
彼の上げた咆哮も、飛んできた衝撃波も、リィを放り出し、全力で防御しなければならないほどの力強さだった。
なのに、シンが纏う空気は不気味なほど静かだ。
深海色の瞳は確かに燃えるような闘志に溢れているのだけれども、そこに熱を感じない。
彼は、“無”だった。
シンは身体すべての力を抜いて、一歩、踏み出す。その姿が、陽炎のように揺らめいて見える。
その次には、もう、目の前にいた。
ゆらりと、まったく力の入っていないような足取りで、ローズマリーの懐に飛び込んでいた。それを捕まえようと手を伸ばしたけれど、それは虚しく空を切る。確かに目の前にあった気配は、一瞬のうちに霧散していた。
ローズマリーの背筋が冷たく震えるのと同時に、背後に気配。
今の今まで懐にいた弟子が、背後にいる。
どうやってすり抜けた。
まったく見えなかった。
気配すら感じなかった。
だが、最後の最後で幻影のような歩法が乱れたらしい。一直線に背後に迫る攻撃は余裕でかわせる──はずだった。
「最後まで、あきらめ、ない……」
いつの間に起き上がったのか、リィがローズマリーの腰をしっかりと捕まえていた。シンの拳はそのままローズマリーの背に──。


