麗しき星の花

「……い、……だ、あ……」

 ローズマリーの手に爪を立て、リィは抗う。意識の続く限り、抵抗してみせる。

 その力もやがて弱くなり、胸の中に灯る火も消えようとしたそのとき。

「その手を、離せ……」

 ゆらりと、シンが立ち上がった。

 彼の目には、幼い頃のリィが見えていた。

 カタカタと震えていた膝。

 小さく鳴る、両手に握られた二刀のバタフライナイフ。

 それを握る小さな手の持ち主は、ツインテールにしたハニーブラウンの髪をも小刻みに揺らしながら、目の前の敵を見据えていた。


 逃げろ。


 動けなかった自分に言えたことは、たったそれだけ。

 けれどもそれに対する答えは、思い出すと今でも泣きたくなるほど胸に突き刺さった。


 いやだ。


 か細い声は震えていた。

 彼女は全身で恐怖していた。

 それでも逃げなかった。


 シンと一緒ににげるの。


 そう言って、震える足を前進させた。

 目の前に立ち塞がる巨大な九頭の竜に向かって、いつものリィからは想像出来ないほどの咆哮を上げ、立ち向かっていった。自分の命よりも兄の命を助けようとした。その小さな体で泣きながら、恐怖を感じながら、それでも助けようと。

 その崇高さに憧れた。

 泣きたくなるほど愛しいと思った。

 そんな風になりたいと思った。

 もう失わない。

 あの時は守れなかった小さな背中を。

 二度と、手放すものか。



「おおおおおおおおっ!!」

 過去のリィの咆哮に重ねるように、シンは声を上げた。それだけでローズマリーの元には衝撃波が飛んでくる。