「ではルドルフは振られるのね」

 少しだけおどけたように言うローズマリーに、リィは眉尻を下げた。けれども翡翠色の瞳に揺らぎはない。

「陛下」

 そこにシンが割って入る。

「俺、皇家になんて入らないと思ってたけど……リィの願いを聞いてくれるなら、俺がユグドラシェルになる。だからリィは自由にしてやってくれ」

「シン……」

 兄の援護に、リィは目を丸くする。シンは何かに縛られるような性格ではない。なのに自分のためにそのようなことを言い出すとは。そんなのは駄目だと言いかけるリィに、シンはニヤリと笑った。

「俺たちの意思が全部通るとは思ってねぇよ。何か条件をつけないと説得は無理だ」

「でも……」

「気にすんな。俺はお前の兄ちゃんだからな。……なんとかしてやるよ」

 シンの言葉を聞いたローズマリーは、ぽつりと呟く。それらなば神殿を納得させやすいかもしれない、と。

「……わかりましたわ。そのことも考慮して話し合いましょうか。ルドルフもきっと貴女の意思を尊重するし、貴女のしあわせを願うと言うはずだから」

 穏やかな顔でそう言うローズマリーに、双子の胸に期待が満ち溢れる。だが彼女は穏やかな笑顔のまま、こう言った。

「けれども貴方たちの願いはあまりにも難題だわ。それに手を貸せというからには、それ相応の対価が必要……」

 ローズマリーは懐からリィの書いた決闘状を取り出し、すうっと目を細めた。そこに宿った剣呑な雰囲気に、双子の背筋に冷たいものが走った。

「自分たちの想いを押し通したいのなら、その想いの強さを私に示して見せなさい」

「……やってやるさ」

 シンは腰の後ろに下げているアストレイアを抜いた。手にした柄を強く握りしめると、軽い音を立てて刃が伸びる。