キン、とした冷たい空気に覆われた、広大な広場。

 橘家の敷地内にあるここは、普段は馬場として使っている場所だ。周囲は森林に囲まれ、屋敷や色んな娯楽施設の建物からは距離があるため、今日の決闘場所に選ばれた。

 双子の目の前に立つピンクブロンドの巻き毛の美女は、穏やかに微笑む。

 ローズマリー=サラスティ=ユグドラシェル。

 彼女はかつて魔族討伐専門機関ギルド・本部に所属し、世界一の拳闘士として讃えられていた。勇者とともに世界を救った一員であり、そして現在は初の民間出身の皇后として惑星王に寄り添っている。

 彼女はただ惑星王の隣にいるわけではない。

 惑星王を付け狙う反対勢力から身を挺して護る『盾』として存在している。つまり、現役バリバリの戦士だ。その戦士が問う。

「貴方達の要望は聞きました。シンはともかく、リィは……なかなか難しいですわね。貴女の現在の皇宮での立場は、『皇太子の唯一の皇妃候補』よ。それを捨てても──いえ、捨てられると思っているの?」

 ユグドラシェルの血は特別なもの。

 その血は代々、一族内のみで紡がれてきた。カインとローズマリーは最初で最後の例外でなくてはならなかったのだ。

「この留学も、皇妃となるための見聞を広めるということで神殿は許可しているわ。それに背くなど絶対に許されません。それに抗えるのかしら」

 リィはぐっと唇を噛み締める。

 シンはその横顔を心配そうに見やり、固く握られた彼女の手をそっと包み込んだ。その温かさにリィはこくりと頷き、決意を宿した目を向けた。

「抗う」