* * *
『私はもう、決めてるの』
そう言い切った妹の揺るがない翡翠色の瞳を見て、シンも力強く頷いた。
「ああ、そうだよな。じゃあ、何としてでも説得しないと」
その言葉に慌てたのはシャルロッテだ。
「ちょっとお待ちなさい。まさかリィまで他に決めた方がいるというのですか? そんなこと……だって兄上は」
「ルーはリィのこと友達だとしか思ってねぇよ」
「親愛の情があるだけ良いではありませんか。わたくしたちには選択の自由などありませんのよ?」
「だから味方を作るんだろ」
シンがリィを見ると、彼女はこっくりと頷いた。
「ロッティ、これ、父様と母様に渡して……」
「お手紙ですか?」
「うん、決闘状」
シャルロッテは驚きに目を見開いた。
* * *
ミルトゥワに帰ってきたシャルロッテからの報告に、フェイレイとリディルは「やはりこうなるか」と苦笑した。
親を説得するのに決闘とは、あの子たちらしい選択だ。そのやり方を教えたのは自分たちなのだから、仕方ないとも言える。
自分たちの未来を勝ち取ろうとする、彼らの想いは本物だ。それをしっかりと受け止めなくてはならないだろう。
「今行っても大丈夫かな」
「駄目ですわ。すぐに大事な会議がございますもの。それに、あの子たちにフェイレイくんの相手は早すぎます」
そう言うのは皇后ローズマリー。
「それなら、私が」
リディルの立候補も、ローズマリーは却下する。
「貴女はカインに付いていて。私が行きます」
えっ、とフェイレイとリディルはローズマリーを見る。
「私があの子たちの成長を確認してきますわ」
にこやかに微笑みながら、ボキボキと拳を鳴らす皇后陛下。ある意味フェイレイよりも恐ろしい体術の師匠が、地球に向かおうとしていた。