シンはぐるんと勢いよくリィを振り返った。よく考えればすぐにそのことに思い至るはずが、何故気づかなかったのか。

 正統なユグドラシェルの血統を残したい皇家。そのために浮上していたシンとシャルロッテの縁談。ならば、皇太子妃となるべきなのは、勇者と姫の血を引く妹しかいないではないか。

「わたくしもディア(クラウディア。シャルロッテの妹。惑星王の第4子)も、リィが姉上となられるのならば大歓迎でしてよ。血筋からも、ご両親の功績からも、貴女自身の評価も。これほど星の民を納得させられる方はおりませんもの」

「それまだ決まってないんだろ!」

 シンが食いつくようにシャルロッテに掴みかかったので、彼女は紅い瞳を見開いた。

「え、ええ、正式に決まっているわけではありませんわ。でも、兄上が15歳になったら、きっと正式に発表されますわ。準成人の儀式とともに、婚約者も……」

「ルーが15になったらって……もうすぐじゃねえか!」

 シンはまたリィを振り返った。だが彼女は奇妙なほど静かだった。当事者ではないシンの方がよほど慌てている。

 リィは分かっていたのだ。シンにそういう話があるのなら、きっと自分にもと。シャルロッテがこちらに来たときから、分かっていた。

「ルーは、なんて言ってるの?」

「わたくしからお聞きしたことはありませんが……でもリィならば兄上もお喜びになりますわ。だってお二人は仲良しですもの。きっと父上と母上のように、相思相愛の夫婦になれますわ」

 シャルロッテのにこやかな顔を見れば、彼女が心からそれを願っていることが分かった。そしてそれは、ミルトゥワの星の民の総意であろうことも、分かった。

「けど、リィは……」

 心配そうに妹を見ていたシンは、あまりにも静かな瞳をしているリィに眉を顰めた。

「だいじょうぶ」

 リィはどこを見るとはなく、ただ、真っ直ぐに前を見つめて言った。

「私はもう、決めてるの」