それから数日後。

 天神学園で授業の様子を参観したり、野菊と言い合いをしたり、橘邸で優雅なお茶会に招待されながら日々を過ごしていたシャルロッテが、ミルトゥワに帰る日が来た。

「お世話になりました」

 この数日で仲良くなった琴音や怜音に向かって微笑む彼女からは、もう憂いは感じられなかった。雲ひとつない今日の青空のように、すっきりとしている。

「えーと、その……悪かったな」

 従妹の思いがけない想いを知ったシンは、歯切れ悪く声をかける。

「貴方は本当に愚かですわ。この美しいわたくしを振ったこと、後々後悔しましてよ」

 悪戯っぽい笑みを浮かべるシャルロッテに、シンも笑みを浮かべた。

「しねーよ、ばーか」

「だとよろしいですわね。……あの子に伝えて頂戴。次に会うときまでに言語と歴史とダンスくらいは覚えておきなさいと」

「あんま強要はしたくねえんだけどな」

「あら、周囲の皆様を納得させるのでしょう? あの子の教育もその一環でしてよ。あの子一人蚊帳の外にしてはいけませんわ。本気で皇族の一員として迎えるのなら」

「だからあ、俺は継ぐ気はねえんだって」

「あらあら、皇太子妃のご友人となる方を、神殿が野放しにするはずがございませんでしょう? いい加減に貴方も覚悟を決めなさいな。リィのためにも」

「……ん?」

 シンは首を傾げた。理解できない単語が出てきた気がする。

「貴方の大好きな妹が星を担っていくのです。その重責を支えるのが兄というものでしょう?」

 シンはしばらくその言葉の意味を考えていた。

 皇太子妃。皇太子の妃。皇太子はルドルフ。紺色の髪の、優しい従兄。その妃が、誰だと?