橘家の玄関先で、橘の家人たちとシャルロッテの間で「皇女殿下を歩かせるなど!」「いえいえ、わたくしも皆と同じことをしてみたいのです」という押し問答があった後、シン、シャルロッテ、リィ、そしてシルヴィは天神学園へと歩き出した。

「ろってーの姉ちゃんは魔力の匂いがあんまりしねぇな」

 通学の道すがら、すんすん、と鼻をひくつかせてシルヴィが言った。

「わたくしは母上に似て、あまり魔力がありませんからね」

 シンの隣を歩きながらそう答えるシャルロッテ。その笑顔には若干の陰りが見られた。その理由を、シンもリィも知っている。

「気にすんな」

 シンがぼそりと呟く。

「お前は魔力がなくても、そこまで強くなったんだろ。その努力が出来るお前は凄いよ」

 真っ直ぐ自分を見つめてそう言ってくれるシンに、シャルロッテは少しだけ目を見開いた後、すぐに花が咲き誇るかのような笑みを浮かべた。

「ええ。ありがとうございます」

 短い礼に最大限の嬉しさを押し隠し、シャルロッテはシンの腕を取ってギュッと抱きついた。

「おい、あんまりくっつくな。歩きづらいだろ」

「だってこちらは寒いのですもの」

 なんてやり取りをしているところに。

「シーンーくーんー!?」

 後ろから、声。

 まさにベストタイミングで──いや、バッドタイミングなのか──野菊が現れた。

「シンくん、シンくん、なにこの子!」

 後ろからタタタ、と走ってきた野菊は、シンとシャルロッテの前に回り込む。そしてシャルロッテの姿を目にすると、上から下までざっと観察し、最後にけしからん胸のところで視線を止めた。ぎゅむぎゅむとシンの腕に押し付けられる、ふわふわマシュマロ兵器に目が釣り上がる。