シャルロッテは誰よりも強かった。

 幼い頃から“世界一”と謳われた拳闘士の母から手解きを受けていた彼女の強さは、同じ年頃の者たちの中では群を抜いていた。

 少し年上の者たちでも相手にはならなかった。

 更に年上の、軍に所属する者たちすら相手にならなかった。

 それがシャルロッテの身分故に手心を加えられているのだと、幼い彼女は気づいていなかった。自分が一番強いのだと、信じて疑わなかった。

 そんな彼女の世界を引っくり返した双子がいる。

 シャルロッテの血の繋がった従兄姉たちだ。

「お前、ばかだな」

 双子の兄の方が、踏ん反り返ってシャルロッテに言い放った。彼はシャルロッテの拳を軽々とかわし、軽々と背後を取り、そして、軽々と拳骨を頭上に叩き込んできた。

 あまりの出来事に目を丸くして震えているシャルロッテの目前に、双子の兄はビシィっ、と人差し指を突き指す。

「自分が一番だなんて、オゴれるものはあっという間に足元を掬われるんだぞ。お前の相手をしてくれてる人たちの方がずっと強いのに。そのことにも気づかないでいるなんて、お前はばかだし、弱い」

 シャルロッテはジンジンする頭のてっぺんを両手で押さえながら、沸々と怒りが沸き上がってくるのを感じた。あまりにも無礼だ。彼女の周りにそんなことを言う者はいなかった。言える者などいなかった。なのにこの少年は。

「俺、お前みたいなの、キライ」

 そんなことを面と向かって言われたのも初めてだった。

「わ、わたくしだって、貴方のような無礼者は嫌いです!」

 涙が零れないように、精一杯虚勢を張って怒鳴ったら、赤髪の少年はふん、と鼻を鳴らした。

「お前の方が無礼だ。他人の好意に気づかないで、いい気になってるヤツ」

「わたくしはいい気になってなどいません!」

「へえ~。じゃあ、もう一回リィと試合してみろよ。一秒も持たないから」

「な……!」

 シャルロッテは双子の妹の方を振り返った。彼女──リィは、今しがた試合をし、あっという間に負かしてしまった相手だった。