始めは嘘をつかれたことを腹立だしく思っていたシンだが、楽しそうな野菊を見ているうちに自分も楽しくなってきたので、まあいいか、と大人しく連れ回された。かわいらしく、たまにはデートに連れてって、と口を尖らせた彼女に、申し訳なくなったというのもある。

 せっかくの休日だ。

 朝稽古と夜稽古以外の時間は、彼女のために使ってもいいのかもしれない。強くなるばかりが野菊の笑顔を守る手段ではないと知ったシンである。

 しかし、デートとはなんぞや、から思考せねばならない、とことん武術バカである。

 自分から誘った場合はどこに連れて行けばいいのか。とりあえず賢い妹に聞きにいく。




「デート? ……野菊ちゃんを誘うの?」

 射撃場で射撃訓練をしていたリィは、シンの相談に少し驚く。武術バカの兄からそんな相談を受けるとは思っていなかったのだ。

 そのリィは『一撃必殺』を目標に訓練しているところだ。今までよりもより精密に、確実に急所を狙う。

 同時に、射撃しつつ召喚する訓練もしている。威力としては魔銃よりも召喚術の方が上だ。だから、速く攻撃出来る魔銃で牽制しつつ、止め用の召喚魔法を撃ち込む。

 魔力をシルヴィにあげる分ギリギリだけを残し、毎日長時間撃ち続けている。


「ああ。今まで早く勇者になって護ってやることしか考えてなかったんだけどさ。それで野菊に寂しい思いさせてたら本末転倒なんだなって気づいたんだ。未来の嫁を泣かせるわけにはいかないからな」

「シン……」

 この間の野菊とのデートは兄を少し成長させたようだ。リィはそれを嬉しく思いつつ、シンにアドバイスしようと考える。

 しかし、リィとてそれほど経験があるわけではない。覇龍闘とは中学生らしいほのぼのしたお付き合いだ。一緒に出かけた回数も数えるほどしかない。