橘邸の庭にある森に、小さな池がある。そこに杭を打ち込んで、逆立ちして歩くというのが最近のシンの修行のひとつ。

 聖を師匠にしてから、彼と拓斗で相談し、腕を中心に体全体の筋力アップとともにバランス感覚を養うために始めた修行だ。それから追加されたのが縄跳びと、鉄棒に逆さまにぶら下がっての腹筋、背筋。

 シンのアストレイアは大太刀ほどの長さに加え、二刀に分解出来るようになっているためかなり幅が広い。これを自分の手足のように振り回せるようになるにはもっと力とバランス感覚が必要だろう、ということでの追加メニューだ。

 持ち味である瞬発力とスピードを殺さないために体を絞り込み、更に鋭く動けるようにする、というのがフェイレイから受け継がれた拓斗と聖の指導方針。


 高さと間隔の違う杭を、飛び跳ねながら何度も何度も行ったりきたり。

 すっかり秋も深まってきて、赤く色付いた木々の合間を涼しい風が渡っていく。けれどもシンは汗だくになりながら逆立ち歩きを続ける。

 強くなる、強くなる、と強くなる自分をイメージしながらトレーニングを続けるのだけれども、そのイメージの中に、たまに過ぎるツインテール。


『たまにはデートに連れてってよぉ』


「……」

 池の中央で立ち止まったシンは、ぐっと腕に力を入れて池岸まで跳んだ。

「デート……」

 汗を拭いつつ、考える。

 先日野菊から、悪い人に囲まれてるから助けに来て、と言われて死に物狂いで飛んで行ってみれば、どうやらシンを呼び出すための嘘だったらしく、そのまま天神の街中を一周する勢いで連れ回された。