何を、とは聞かなかった。白い矢は一直線に神楽の口を狙っている。

 ギリギリとしなる白い弓と、迸る聖の笑顔。

 そう、笑顔だ。

 この人、怒ると笑顔になる人だ。しかも目の前が真っ白になるほどに輝かしい笑顔。

 シンはどこか遠くからその光景を眺めている気分だった。目の前にある凄まじい殺気から逃げたかったからかもしれない。

 だから神楽の悲鳴が盛大に響き渡っても、聖師匠の剣もカッコイイけど白い弓もカッコイイなー、くらいにしか思えなかった。




 その日の夜、修行の様子をリィに報告したら、「さすが櫻井先生……」とうっとりした。

「なんで!」

 神楽はあの後、酷い目に遭わされてたのに。

 するとリィはこてん、と首を傾げて、

「だって、その神楽さんは、寂しがってたんでしょ?」

「は? なんで」

「せっかく遊びに来たのに、先生はシンの相手してるから……構って欲しかったの」

「ええ? そんな感じじゃ……」

「先生はその神楽さんの気持ちに応えただけ。優しい人だね……」

「え、ええ? 優しさ、なの?」

「そう、優しさ。さすが偉大なるS。気遣いが違う……攻め具合からも、二人の信頼関係が伺える……」

 そんな感じ、だったのだろうか。

 そう言われればそんな気もするが。

 やっぱり違う気もするシンだった。