櫻井聖を師と仰いだシンは、しばらく基礎訓練ばかりの毎日となった。元々拓斗との修行も基礎ばかりだったが、愛剣アストレイアを構えての訓練も、決められた型通りに聖と打ち合うだけだ。

 右足を前にして両足を地面に固定した後は、そこから一ミリも動くことなく剣を合わせる。

 聖の剣を受け流しながらアストレイアを突き出し、しかし逆にそれを流されるので、態勢を整えて更に攻撃を受け流す。延々と、その繰り返し。

 派手に動くわけではないし、力を入れているわけでもない。だが集中を切らすとすぐに隙を突かれて崩されるので、気が付くといつも息が上がっていた。

 橙に染まる夕暮れの中、大量に白い息を吐き出しながら聖を見上げると、彼も同じように白い息を吐き出しながら、微かに笑った。

 その顔にはまだまだ余裕が伺える。

 さすがだな、と素直に感心しながら、シンは毎日地面に足を縫いとめたまま剣を振るう。




 そんな修行が幾日か過ぎたある日のこと。

「よろしくお願いします!」

 土曜日の夕方、もう日が翳って冷たい風が吹き始める頃、シンは櫻井家の庭でいつものように頭を下げた。

 忙しい聖のために、剣の修行場所はいつも櫻井家の庭。そして診察が終わる夕方と決まっていた。

「ああ、こちらこそよろしく頼むよ」

 聖は軽く微笑みながらそう言うと、『結界』を張るために気力を整えようとした。『普通のおじさん』と言い張る聖は、ご近所の方々に剣を振っている姿を見られるのはまずいらしい。