「聖くん、少し寝起きが悪いんです。機嫌が悪そうに見えますけれど、そうでもありませんから気にしないでくださいね」

「は、はあ……」

 いや、怖いよ。

 『暗示』をかけているという眼鏡を外しているからなのか、いつもより何かの力がダダ漏れで肌にビリビリ刺さるし、普段は見惚れるほど美しい相貌が、破壊の光でも放ちそうなほど凶悪になっている。

「お、おはようございます、聖師匠」

 そう声をかけても、無言で鋭い眼光を向けられただけだ。あまりにも鋭いので、心臓が止まるかと思った。

 昼間はあんなに優しげな笑みを浮かべてくれるのに。なんなのこのギャップ。

「だ、大丈夫なんですか……」

 俺、殺されませんか。そう不安になって呟いたところに、奥の方からトテトテと小さな少女が歩いてきた。

「あれぇ、お父さん、お出かけなのぉ……?」

 眠そうに目を擦りながら歩いてきたのは、橘家の玲音くらいの年の、髪の長い少女だった。見るからに聖と李苑の娘だと分かる美少女で、どちらかと言えば聖似の、美しい切れ長の瞳を持っている。

 その少女が現れた途端。

 肌をビリビリ突き刺す“気”が収まった。

 不思議に思う間もなく、更に奇怪な現象が。

「ああ、雛、起こしてごめんな」

 振り返った聖、爽やかさ百パーセント。

(ええええええ!?)

 今さっきまで破壊の光を放ちそうだった凶悪な目は優しく細められ、いつもシンが聞いている声よりも更に甘い声で娘を抱き上げる聖。

「お父さん、どこ行くの?」

「ちょっとお仕事にな。雛はまだ起きるには早いだろう。もう少し寝てていいぞ」

「うん、わかったぁ。もうちょっと寝てるねー」

「ああ」

「気をつけて行ってらっしゃぁい」

「ありがとう、行ってきます」

 少し眠そうに力なく笑う娘の頭を撫でる優しいお父さんに、シン、開いた口が塞がらない。

「ふふ、だからそうでもないって、言ったでしょう?」

 にこやかに笑う李苑に、シンは首を傾げながらも頷いておいた。