力強く頷いてみせるシンに、李苑も頷き返した。

「……だって。どうするんですか、聖くん」

 え、とシンは振り返る。いつの間にか医院の玄関前に聖が腕組みして立っていた。

「あれ、診察は?」

「もう終わってる。リィシンくんで最後だったんだよ」

「あれ?」

 そうだったっけ? とシンは首を捻る。

 まあそんなことはどうでもいい。シンは聖を真っ直ぐに見つめ、改めて頭を下げる。

「先生、俺を弟子にしてください!」

 がばっと頭を下げる小さな少年を、聖は無表情に見つめていた。花壇の前に座っていた李苑は立ち上がり、二人を優しい顔で見守る。

「……君の師匠……剣のね。師匠は、なんて言ってるんだ?」

 聖の問いかけに、シンは頭を上げて答える。

「父は、留学先で色んなものを学べと言っていました」

「他の流派を習っても問題ないと?」

「父が習っていたのは魔族相手の型に嵌らない剣技だったから、流派とか、そういうのはありません。だから、自分の身になるものであれば、どんどん吸収しろと」

「……なるほど」

「先生、お願いします!」

 シンはもう一度頭を下げる。いいと言われるまで、頭を上げるつもりは無かった。

 秋の冷たい風がシンの赤い髪を、聖のダークブラウンの髪を揺らす。

 聖は頭を下げるシンから李苑へ視線を転じた。彼女は変わらず穏やかに微笑んでいて、視線が合うと静かに頷いた。

 聖が忙しくなると必然的に妻である李苑も忙しくなるのだが、彼女は了承してくれたようだ。

 それに李苑は知っていた。

 夫がシンのように純粋で真っ直ぐな心の持ち主が嫌いではないこと、こうして懇願されれば放っておけないこと。そして、誰かを護りたいと願う気持ちは誰よりも理解出来るということが。