「……リィシンくん」

 元気のいい赤髪の少年に、聖はハア、と溜息をついた。

 シンの目的は読めていたが、一応ここは病院で、自分は医者である。

「今日はどうしましたか?」

 そう訊ねると、シンは椅子にも座らず、その場で叫んだ。

「先生! お願いします、俺をでしっ……」

 言いかけたところで、シンは違和感を感じて周囲に意識を張り巡らせた。目の前にいる白衣姿の聖も、机も、パソコンも、診察室の中にあるものはそのまま同じだ。なのに、今診察室にどうぞ、と声をかけてくれた看護師の姿が消えた。彼女だけではない。受付にいた事務員の気配も、他の看護師の気配も、待合室にいたたくさんの患者の気配も、すべて、消えた。

「な、なんだ……?」

 異様な空気を肌で感じ、シンは警戒を強める。

「結界だよ」

 また溜息をつきながら聖が言った。

「あのね。俺は周囲の人には『普通のおじさん』と認識されているから。不用意に弟子にしてくださいとか、言わないように」

「あ、ああ、そうなんですか、すみません……」

 いや、そこは『超絶イケメン医師』の方がしっくりくるし、きっとみんなそういう認識だよなぁ、なんて思いながらも、シンは質問する。

「結界って……?」

「別空間を創り上げた。君との話は人のいる通常空間ではしにくいからね」

 別空間を創り上げたって、今の一瞬でか。

 本当に何者だこの人、とシンは言葉を失う。

「というわけで」

 聖はにっこりと微笑んだ。

「今、俺は診察中。仕事中。分かるかな?」

「はい」

「なら、出てけ」