そもそも、リィは割と甘えん坊なのだ。

 しっかりしていそうな外面と、安心を求めて兄にべったりくっつく内面。どちらが本当のリィなのかと言えば、どちらも、である。

 こちらの文化を知っているからこそ控えているが、兄のシンを始め、家族にとってはハグも頬へのキスも日常の挨拶。手を繋ぎたければ手を伸ばし、愛しいと思えばぎゅっと抱きしめ、慰めたいと思えば頭を優しく撫でる。それが当たり前だった。


 それを家族以外の人に求めることはなかった。

 こちらの世界では、他人同士では気軽に触れ合わないと学習していたからだ。

 けれども、それを求めるようになった。

 たぶん。

 こちらから霸龍闘に、霸龍闘から自分に。

 一歩、踏み込んでみたくなったのだ。それだけ彼が心を許せる人になってきたのだというしるしでもあった。



 

 再び、リィの前で黒い弁髪が揺れている。

 視線はやはり、弁髪から彼の手へ。

 そこにそっと手を伸ばしては止め、伸ばしては止め。

 触れたい、繋がりたい、でも恥ずかしい、嫌がられたらどうしよう。色んな思いがぐるぐると胸の中を駆け巡って、駆け巡って、結局はいつもの握り慣れた弁髪を掴む。

「ん?」

 くい、と軽く引っ張れば、変わらない笑顔が見れた。

(……まだ、これが精一杯)

 距離を縮めるのはなかなかに難しい。

 リィは微かに頬を染めながら、弁髪を手の中でにぎにぎするのだった。