「リィシンくん」

 甘く響く聖の声。だが、いつもよりずっと低い。

 視線を動かすと、自分を見下ろすダークブラウンの相貌と目が合った。

「俺はね。あまり優しくないし、気も長い方ではないんだ。だから……分かるよな?」

 聖がすっと眼鏡を外す。途端に彼を取り巻く空気が変わった。

(重い)

 ビリビリと肌に突き刺さる気。

 見た者すべてを凍らせる、絶対零度の視線がシンに襲い掛かる。

(殺られる)

 本気でそう思った。

 震えることすら出来ない。視線だけで動きを封じられるなんて──完膚なき敗北だ。

「は、い……」

 だから止めなさいって言ったじゃない、だから言ったじゃない! ……そんな愛らしいウィスプの声も、遥か遠く。シンは僅かに頷くことしか出来なかった。




 これを客観的に見ていたリィは、信じられない思いでいた。

 精霊を身に纏い、普段よりもずっと攻撃力を増したシンの攻撃を、あっさりと──そう、あっさりと、聖は跳ね返した。

 襲い掛かってくるシンの足を払いながら、後ろに振った腕でシンの肩を打ち、床に叩き付けた。戦い慣れたシンが反応出来ないほどのスピードだ。リィの目でもなんとかその動作を見ることが出来た程度。傍にいた琴音など、何が起きたのかすら分からないだろう。

 しかし何よりリィが驚いたのは、聖の、その行動──。