「傷の具合もすっかりいいようだね。リィファちゃんもそうだけど、驚くほどの回復力だな」

「鍛えてますんで!」

 言いながら、カルテに記入をしている聖の椅子に蹴りを入れて倒そうとする。その蹴り足に、聖の長い足がこつん、と触れた。それだけで完全に力の向きを変えられる。

「リィシンくん、書いてるときはジッとしてて」

「すいませんんんっ」

 何をやっても駄目だ。軽く流されるし、攻撃を受けているということもまったく感じさせない。

「先生! 俺と組手してください!」

「俺は武道家じゃないから、組手なら拓斗くんのような、ちゃんとした先生とやりなさい」

 にこにこと、どこにも隙の無い笑顔でそう言われ、診察は終わる。



(くっそー、くっそー!)

 シンは悔しい。

 聖に診察してもらうようになってから、毎度のように攻撃をしてきた。だがそれらはすべて涼しい顔で跳ね返されてしまう。

 あの人から一本取れるようになったら、自分は更に高みに登れるのではないか。そんな気がするのに……。

「……はっ! リィの診察中なら先生も油断してるはず!」

 思い立ったシンは、次に診察を受けているリィの部屋に突撃。

「リィ、兄ちゃんが診察に立ち会ってやるっ……」

「っ、……シンの、ばかあああああ!」

 部屋に飛び込んだ瞬間に、リィの回し蹴りが鼻に飛んできた。

 乙女の診察を覗こうとするお馬鹿な兄への制裁である。