二週間ごとの定期健診の日、シンは「今日こそは」と意気込んでいた。

 主治医である櫻井聖から、今日こそ一本取る、と。



「じゃあ、服を脱いでね」

 聴診器を持って椅子に座り、待ち構えている敵。

「はいっ!」

 シンはやたら気合の入った返事とともに、脱いだシャツをぶん、と振り回して敵の視界を覆い、それを隠れ蓑に顔面に拳を突き出した。

 だが拳は柔らかなシャツを突き抜けただけで、なんの感触も得られなかった。

「リィシンくん、服はそっちに置いてくれるかな」

 シンの振り回したシャツを手にした聖が、拳をギリギリかわした位置で綺麗に微笑んでいる。

「くっ! はいっ!」

 悔しがりながらもシャツを受け取り、聖の前の椅子に座る。聴診器で胸の音を聞いてもらった後は、口内の診察だ。

「はい、じゃあ、口を開けてくれるかな」

 さわやかな顔で使い捨ての舌圧子を差し出した聖の手に、突然がぶりと噛み付こうとするシン。聖はそれを、舌圧子でシンの額をちょん、と軽く押すことで止めた。

「はは、そんなに開けなくても大丈夫だよ」

「ぐううう、はひいいいい!」

 口を開けたまま、シンは猛獣のように唸る。

 この野郎、涼しい顔しやがって、なんという反射神経だ。

 スピードには定評のある自分の攻撃を、こうもあっさりとかわすとはやはり只者ではない。こんな完璧な敗北感を味わうのは父やローズマリーを相手にしたとき以来だ。現在師事している拓斗や鷹雅にだって、いつかは勝てるという手応えを感じられるというのに。この人に対しては露ほども思えない。