朝、目が覚めて。

 異変に気づいた。




 あの凄まじい戦いが繰り広げられたタイマントーナメントから数日。

 リィは初戦敗退したものの、素晴らしい覚悟を見せてくれたし、シンはなんと決勝まで進み、瑠璃と同時優勝という歴史的快挙を成し遂げた。

 まさに死闘を繰り広げた彼らは酷い怪我を負ったものの、普段から鍛えている身体の回復力は凄まじく、退院翌日に一日だけ寝込んだ後は包帯をしながら普段と変わらぬ修行を始めた。

 主治医の櫻井先生には苦笑気味に「無理は駄目だよ」と言われたが、体が疼いてどうしようもない。目標が更に更に高くなったのだ。寝てなどいられない。



 そんなある日。

 いつも通りに五時に起き、ベッドから抜け出したシンは、ふと、異変に気づいた。

 クローゼットの位置が逆だ。

「……あれ?」

 少しだけ眠気の残る頭を傾げる。

 ベッドを左側に下りた先がクローゼットのはずなのだが、ベッドの右側に位置がずれている。

「……リィの部屋?」

 リィの部屋はシンの部屋と隣り合っていて、橘家が用意してくれたベッドや机などの家具も含め、すべてが対照に作られている。他に違うところと言えば、カーテンの色──レースの白を基本に、シンが水色、リィがピンクとなっている──くらいか。

 見渡せばすぐに、自分の部屋にはないものが目に入る。窓際の机の上に置かれた大量の書物。難しそうな本がぎっしり詰まった本棚、その上にかわいい小瓶に挿されたピンクの花と黒猫のぬいぐるみ。ピンク色のカーテン。間違いない、リィの部屋だ。