「リィファさん、本当に大丈夫ですか? あんなに強く叩きつけられたんですよ? 病院に行きましょう、それとも聖様に!」

「大丈夫……。琴音も、大丈夫?」

 琴音を安心させようとしているのか、リィはふわりと微笑む。

「私は何ともありません。……本当に大丈夫なんですか?」

「あのくらい、平気だよ……自分で飛んだりしたから、まともに食らったわけじゃないし……」

 そう言うものの、琴音は気づいた。リィの手が、微かに震えていることに。

「リィファさん、手が……」

 怪我は本当になんともないのかもしれない。けれど、あんな大男と戦うのは、いくらリィでも怖かったに違いない。

「すみません、私のせいで、あんな大きな方と戦わせてしまって……怖かった、ですよね……」

「……ううん。戦うことは平気。でも……」

「傷つけるのは怖いんだろ」

 シンはリィの言葉尻りを拾い、そう言う。そうしてアストレイアを腰の鞘に収め、震えるリィの手を握ってやった。

「人を傷つける……殺められる力を行使する覚悟は出来ても、それを怖いと思うことはまた別だからな」

 溜息をつきながら、シンはリィを軽く睨みつける。

「ったく、慣れないことするから」

「……うん。でも、分からせてあげたかった……」

 先ほどまで大男の指を容赦なく折っていたとは思えない、ちょっと情けない顔をして、兄を上目遣いに見るリィ。

「あいつは、そんなすぐに改心しないぞ」

「……うん、だから、何度でも」

「ったく……」

 何度でも、震えながら相手をするつもりか。

 そんな妹の頭を、シンはグシャグシャと乱暴に撫で回す。しばらくリィは大人しく頭を撫でられていた。それから、ぼさぼさになったハニーブラウンの髪の隙間から、琴音に目をやる。