麗しき星の花

 琴音は震えていた。彼女は一般人だ。このような争い事には慣れていないし、関わりたいとも思わない。それでも琴音は気丈に振舞った。

「っ……無礼者、離しなさい! そして私の大切な友人を傷つけたことを今すぐ詫びなさいっ!」

「元気がいいなぁ、お嬢ちゃん」

「てか、『無礼者』って、あんた何者だよ」

「そういや、見たことあるな?」

 男たちはマジマジと琴音の顔を見た。そのうちの一人が、「テレビで見たぞ!」と言い出した。

「ヴァイオリニストの娘じゃね?」

「ああ、じゃあ『橘家』の!」

「橘っていやぁ、あれか? あの橘か?」

「おー、お金持ちの。本物のお嬢様じゃん」

「へえ、じゃあおうちに連絡しちゃう? お金貰っちゃったりしちゃう?」

 冗談なのか本気なのか、そんなことを言い出す男たちに、琴音は唇を噛み締める。自分がこうして捕まっていなければ、リィは戦えるのに。自分が足手まといにならなければ──。

 大男の腕が再び振られ、リィの頬が張られた。

 小気味良く鳴り響く音に、琴音は思わず顔を逸らした。──自分がいなければ、あんな痛い思いをさせずに済んだのに。

 俯いて唇を噛む、そんな彼女を、何かあたたかなものが包み込んだ。なんだか安心する。眠りに落ちる前、あたたかな毛布に包まってまどろむような安心感。何故そんなものを感じたのか不思議に思う間もなく、琴音を押さえつけている男たちが呻きだした。

「な、なんだ、体が動かねぇ!」

「え……」

 振り返ると、通路にいる不良たち全員が、同じ姿勢のまま固まってしまっていた。

「な、なにが……?」

 驚く琴音に、少し頬を腫らし、桜色の唇を鮮血に染めたたリィが涼しい顔で言う。

「ごめんね……広範囲だったから、少し、時間がかかった……」

 琴音には見ることは叶わないが、リィは闇の精霊シェイドを召喚していた。シェイドは静かに男たちの影に忍び寄り、影ごと床に縫いとめていた。