そこにリディルがティーセットを運んできて、フェイレイとヴァンガードの前に白い陶器のカップを置き、琥珀色のお茶を注いだ。

「ありがとうございますリディルさん。……しかし、シンはまずかったですね。女性に恥をかかせてしまいました」

「そうだよな。俺も母さんに言われて嫌々習ってたけど……役に立ったもんなぁ」

 チラリとリディルに視線をやると、彼女も小さく頷いた。

 今思えば、フェイレイの母アリアは、リディルをユグドラシェルの血統だと知っていたから、皇宮に帰るときが来たときのためにダンスを習わせておいたのだろう。その騎士となるべきフェイレイにも。

「シン、大丈夫だったかな。彼女に嫌われてないといいけど……」

「……彼女?」

 ヴァンガードが眉を潜めて聞き返す。

「うん。体育祭のダンス、シンは彼女と踊ったんだって。リィも、彼氏と」

「リィも? ……ああ、そうですか。12……いや、13歳になったんですよね。そうか、そういう年になったんですね……」

 独り言のように呟くヴァンガード。

 口調は穏やかなままだが、トーンがどんどん低くなっていく。更に、美しい笑顔にはどす黒い気配が広がる。

「リィの好きな人は、母さんにちょっと似ている人の息子さんで、拳銃使いで……だから気が合って、仲良くなったみたい」

 リディルが嬉しそうに説明する。

「逢ったことはないけど、きっとにゃんにゃん先生みたいな凛々しい男の子だと思うの……この間、お友達と一緒に撮った写真が送られて来て、そこに写ってたよ。見てみる? シンの好きな人も写ってるの。高校に通ってたときの同級生の娘さんで、とってもかわいい子……」

 リディル、更に嬉しそうに語り、写真を取りに席を外す。