「ヴァン」

「はい」

「呼び方、それ、嫌だから……」

「ご命令とあらば」

「命令なんてしない。これは、お願い」

「……私にも立場が」

「ここに立場なんて持ち込むなよ。ここにいる間、俺たちはただの『仲間』だ」

 フェイレイの言葉に、ヴァンガードは軽く溜息をついて肩を竦めた。

「仕方ないですね……承知いたしました、リディルさん」

「うん」

 微笑んで頷くリディルに、ヴァンガードも皇太子護衛官としての硬い表情を崩す。それからフェイレイに促されてソファに腰を下ろした。

「シンとリィからの手紙ですか」

「それからシルヴィな」

 見るか? とフェイレイは白い封筒ごと、便箋をヴァンガードに渡す。

「……こちらの羊皮紙とは比べ物にならないくらい、軽くて滑らかな素材です。……文化の違い以上に、文明の差を感じる代物ですね……」

 便箋を指で撫でながら、ヴァンガードはその手触りに感心する。

「シンが言うには、この星の文化はちぐはぐなんだって」

 ティーワゴンを押して戻ってきたリディルが言う。

「確かに、我が星は開星以降、急激に発展しましたからね。その成長にまだ人々の意識が追いつかないところは多いと思いますが……僕には良く分かりませんね」

「こればかりは、他の星を見てみないと分からないからな」

「……でしょうね」

 生まれたときからこの星で生活してきたヴァンガードには、グリフィノー一家が抱くこの星の違和感を感じ取ることは出来なかった。

 そんな会話をしながら手紙を読み進めていていくうちに、ヴァンガードの顔にはいつの間にか優しい笑みが浮かんでいた。