「うにゃあ~」

 シルヴィは難しい顔をして唸っていた。

 学校から帰ってくると、自分の部屋ではなく橘ファミリーのリビングの方へ真っ直ぐに行き、鞄もそこに置いてメイドたちからおやつを貰うのが日課のシルヴィ。

 今日もお菓子を頬張りながら宿題をしていたのだが……。

「ふにゃあ~」

 短い腕を組み、首を傾げながら唸っている。そこに同じく学校から玲音が帰ってきて、声をかけた。

「どうしたの?」

「んー。すくだい(宿題)が出たんだ。『おじいちゃん、おばあちゃんに感謝のおがてみを書こう』ってやづだ」

「……ああ、敬老の日でお手紙を書くんだね」

 玲音は鞄を東条に預け、ここに自分の分のおやつを用意するようにと伝えた。東条は丁寧に頭を下げた後、おやつの準備をしにリビングを出て行く。

 玲音はシルヴィの隣に座り、シルヴィが睨めっこしている白い原稿用紙を見る。

「シルヴィのお爺様、お婆様は?」

「んー、おれ、母ちゃんしか知らねぇんだ」

「そうなんだ……」

 じゃあお父さんは? と言いかけた玲音だが、母親しか知らないシルヴィに聞いても返ってくる答えは分かりきっていたので、その疑問はぐっと飲み込んだ。たまに腹黒い少年も、根は優しいのだ。

「じいちゃん、ばあちゃんがいねぇ人は、近所の人でも、誰でもいいから書いてねって、小夜先生は言ってただ」

「じゃあ、誰か知っている人を書く?」

「でもおれ、ろーじんのお尻合い(お知り合い)、いねくて……あ、玲音のじいちゃんとばあちゃんならいいべか?」

「ああ、そうだね、そうしたらいいよ」