「……あ、違いました。一番の好物はカキ氷かもしれません」

「え?」

「いつも黙々と食べるので、どれが好きなのか分かり辛いのですが……カキ氷だけは一気に食べてしまうのですよ。きっと好きだからなんですね」

「へえ……?」

「今日は修行でたくさん力を使ってしまいましたから、明日にでも作ってあげようかなぁ」

「明日?」

 でも、もうだいぶ涼しくなってきたよ? 昼に食べるならともかく、晩御飯のデザートにカキ氷はどうなの? 
 
「夏の間もパートでたくさん力を使いましたから、食べさせてあげられなかったんです。だから、これからは学生さんたちのためではなく、防人さんのためにがんばります」

 雪菜は拳をぐっと握った。

「……や、これから寒くなってくるって、聞いたけど……?」

「はい。過ごしやすくなりますね」

 シンの遠慮がちな質問に、雪菜はにこにこ笑って答えた。

「冬でもカキ氷を食べるんですか……?」

「はい、食べてくれますよ。それはもう、一気に。私、それがとても嬉しくて」

「何故に!?」

 思わずシンが突っ込む。

「ええ、実は、カキ氷は亡き父も大好きだったそうなんです。母が作るカキ氷を、いつもおいしそうに食べてくれていたそうで……。防人さんも父のようにカキ氷が好きなんだなぁって思ったら、なんだか嬉しくて」

 ほんの少し寂しそうに、でも優しげな笑みを浮かべる雪菜。

 ともすれば感動する話だ。死んだ父と同じものを夫が好んで食べてくれるなんて。

 でもカキ氷。

 冬にカキ氷。

 一気に食べるのって、物凄く覚悟して挑んでいるからなんじゃあ……?

(嫌なら嫌って言った方がいいよな……)

(いくら死神さんでも、冬にカキ氷は……)

 シンとリィは視線だけでそう会話した。

「……ゆ、雪菜さんは冬にカキ氷食べても平気なの?」

 シンは死神を援護しようと、そう言ってみたけれども。

「はい! 冬にカキ氷を食べると、とっても元気が出ますよね!」

 すんごい笑顔でそう返された。



 彼女は雪女。

 冬が大好きな妖怪だった──。