雪菜は体力がないので、長い時間双子の修行に付き合うことは出来ない。

 この日も適当なところで切り上げて、客間でお茶を飲みながら休憩をしていた。双子もそれに付き合い、和音が焼いておいてくれたシフォンケーキにむしゃぶりつく。

「はあ、和音さんのケーキはいつ食べてもおいしいですねぇ。私も防人さんに、このくらいおいしいお菓子を食べさせてあげたいのですが……なかなか難しいです」

 ほう、と溜息をつきながら、和音のシフォンケーキを堪能する雪菜。

「確かに……シフォンキーキは、ふわふわに焼くのがとても難しい……和音さん、すごい……」

 はむはむと食しながら、リィも感心する。

「ん、ふごい。んまい」

 シンは頬をパンパンに膨らませて食べている。更に口に突っ込もうとして喉に引っ掛け、リィに背中を叩いてもらった。

「でも、雪菜さんもお料理は上手と聞いています……食堂で働いていたし……」

「私なんてほんのお手伝い程度ですよー。作れるお料理の数も少なくて、防人さんが飽きないように献立を考えるのが大変で……」

 主婦ならではの悩みをぽろりと漏らす雪菜。

「……死神さん、文句言ったりするんですか……?」

 リィは死んだ魚のような目をした用務員の姿を思い浮かべる。パッと見幽霊のようで怖いのだが、両親のことを優しく語ってくれた印象が強く、良い人だと思っていたが。

 雪菜はぶんぶんと首を横に振った。

「いいえ、いいえ、そんなこと一度も言われたことはありませんよ! いつもおいしいって言ってくださいますよ! うへへへへへ」

 激しく否定した後、白い着物の袖口で口元を覆い、頬を染める雪菜。……若干笑い方が変なのは気のせいか。

 そんな雪菜を見て、リィはしあわせそうだなぁ、とほっこりした気分になった。