「それでは、参りますよぉ~」

 気の抜けるようなかわいらしい声の後、鋭い氷柱が吹雪に乗って飛んできた。吹雪のせいで真っ白になる視界の中、シンとリィは気配だけで氷柱を防ぎつつ、魔力を練り上げて精霊たちを召喚する訓練をする。

「はい、次、参りますよぉ~」

 またまた暢気な声を上げつつ、紅梅の描かれた白い扇子、『小梅ちゃん』を一振り。

 容赦のない吹雪と氷柱を繰り出すのは、天神学園の夏季限定食堂のオバチャン改めおねいさん、小岩井雪菜だ。真っ白な着物を着た、アイスブルーの髪と目を持つ雪女である。

 彼女の動きは決して速くない。日本舞踊のような優雅な動きはむしろ、シンたちからすれば蝸牛のごときである。だが扇子から繰り出される吹雪は猛烈な勢いで襲い掛かってくる。


『雪女』

 この国の古来から存在する妖怪で、雪を纏った美しい女性の姿をしている者が多く、人の精気を奪う恐ろしい妖怪……と、されている。

 だが人間とのハーフのせいなのか、雪菜からは畏しさよりも安心感、いや、『ぼくが守ってあげなくちゃ!』的な儚さを感じる。

 それでも雪女は雪女。雪や氷に関する攻撃だけは一級品で、シンやリィが精霊を召喚する隙を与えないほどだった。つまり、無詠唱で技を出す練習に持って来いの相手なのである。