「……リィ」

 シンは背筋に寒さを覚えた。

 妹たちに両側から抱きつかれ、ダイレクトに体温を感じているにも関わらず、なんだか寒い。

「あんもって、なんだ」

 リィはビクリと震えた。

「も、もあもあ……」

 しかしそれでは伝わらないと、ぎゅっと目を閉じて歯を食いしばって答える。

「お、ばけぇ……」

 その言葉に、シンは体の芯から凍りついた。

 そしてバスルームからは様々な絶叫が飛び出すこととなり、橘家の人々があちこちから駆けつける大騒ぎとなった。






(ど、どうしよう)

 その大騒ぎを暗い外の庭から眺めていたのは、花音である。

(大騒ぎになっちゃったぴょん)

 ぴょこぴょこと手を動かすのは、巨大ウサギぬいぐるみ五所川原。ちなみに弁髪のついた霸龍闘バージョン、ツインテールでちょっと日焼けした野菊バージョンの新作である。現在瑠璃一味のみんなをモデルにした五所川原を順次作成中なのだ。そのうちシルヴィの部屋に天神バージョン五所川原帝国が出来るかもしれない。

 その新作を持ってきた花音は、作ったものを見て喜ぶ顔が早く見たいなぁという欲求により、シンたちの使っている部屋のバスルームからひょっこり五所川原の顔を覗かせたのだった。

 そうしたら、この騒ぎ。

 庭木の陰から出るに出られなくなったお嬢様。

 バスルームではまだまだ大騒ぎが続いていた。












「先生、お風呂には眼鏡をかけて入れないので、おばけが見えてしまうようです。どうしたらいいですか……?」

 その日の夜遅く、リィから電話でそんなことを相談された櫻井聖医師は、橘邸には精霊が多くいるようだから、幽霊などの悪しきものは入れない、というアドバイスを思いつき、それでグリフィノー兄妹も納得したのだった。


 おばけなんてないさ。

 見間違えただけさ……。