「にいぢゃあ、あんもがいだぁ! あんもがああ!」

「シルヴィ、大丈夫だから落ち着け。あんもって、なんだ?」

「あんもだべええ! 夜に、悪ぃ子がいっと子どもを攫いにくるんだべえぇ! 昔ドラゴンの母ちゃんが言ってたんだ、早ぐ寝ねぇどあんもが来んだってえぇ!」

 あんも。それは鬼のようなものだろうか。

 シンは先日の天神祭りの時に見た、なまはげハイパーの姿を思い浮かべた。確かにシルヴィは相当怯えていたようだし、そんなものが窓の外に現れたら怖いだろうが……。

「てか、この屋敷に侵入者!?」

 そりゃ大変だ、とシンはリィとシルヴィを振り払うように歩き出す。セキュリティ万全の橘邸に侵入出来る者となれば、相当な手練のはずだ。こんなところでのんびりはしていられない。

「やっ、シン、いかないでっ……」

「にゃあああ、にいぢゃああ、危ねぇだ、食われっちまうよおおお!」

 だが、動けない。

 妹たちに雁字搦めにされてしまっている。

「不審者がいたんだろっ? ちょっと見てくるだけだ、だから放せって、な?」

「やだぁ……」

 リィはふるふる震えながらシンにしがみついている。涙さえ零しそうだ。

 ここでシン、ふと気づいた。

 鬼だろうとなんだろうと、リィは敵が現れたら毅然と立ち向かう子である。こんな風にただ泣いてすがりついてくるなんてこと、しない子である。たとえ目の前にあの九頭の竜が現れたとしても、こんな風には取り乱さない、きっと。