それを聞いたときはあまりピンと来なかった。

 ただ夜空でキラキラ光る星と、野原でふわふわ揺れる花をイメージしたくらいで。



 でも、その晩のことだった。

 大きな大きな月が藍の夜空で煌々と輝く夜更けに、リィはふと目を覚ました。

 相変わらず窓の外には大きな月が見えていた。

 ゴツゴツとしたクレーターの見える灰の月が冷たいものにしか見えないリィは、その月から隠れようと、布団を引っ張り上げようとした。

 そのとき、どこからか泣き声が聞こえてきた。

 しん、と静まり返った部屋の中に、途切れ途切れに弱々しい女の人の泣く声が聞こえる。

 起き上がってみれば、隣のベッドで眠っていたはずの母の姿が見当たらなかった。

「かあさま……?」

 この星は月が有名な観光名所だったので、宿泊施設も立派なものが多く、リィたちが泊まっている部屋も二間続きの豪華な部屋だった。

 泣き声は隣の部屋から聞こえる。

 リィはそっと、扉を開けてみた。


 窓の向こうに見える大きな大きな月の光が、灯りをつけない室内を煌々と照らしている。

 その部屋の中央にあるソファに、母は座っていた。

 声を押し殺して、しかし時折哀しげに吐息を零しながら泣いている。ぱたぱた落ちていく涙が、月明かりで銀色に光った。

 ごめんなさい、と。

 あなたの大切な人たちを奪ってしまった、ごめんなさい、と。何度も、何度も、震える声で呟いていた。