「さて、気になるところがあればついでに診察していくけど。リィシンくんはどこも悪いところはないかな?」

 話が一段落したところで聖にそう言われ、シンが徐に顔を上げた。

「あ、先生、病気とかじゃないんだけど、ちょっと相談したいことが……」

「俺はカウンセラーじゃないから、的確なアドバイスが出来るかは分からないよ?」

「いいんだ。誰に聞いたらいいか分かんないから、ちょっと聞いてみたいっつーか……どうしたら嫌いなものを克服出来るのかと思ってさ」

「嫌いなもの? どんなものかな?」

「おばけ」

「……おばけ」

 聖はクールな笑みを浮かべたまま、ゆっくりと聞き返した。

「そう、おばけだよ。あれだけはどうしても克服出来なくてさ。何か、おばけが怖くなくなる薬とかないかな?」

 見れば、リィがキラキラした目でシンを見ている。そしてそのままの目を聖へ向けてきた。……どうやら彼女もその方法を知りたいらしい。

 聖は少しの間視線を斜め上へ向けていた。

 そして。

「いると思えばいる。いないと思えばいない。おばけとか、幽霊はそういうものだよ」

「え、そういうもん?」

「一部では、心霊現象はすべて脳科学や心理学で説明出来るとも言われているし……」

「科学で説明出来るんですか……?」

「俺は専門じゃないから詳しくは知らないけどね。そうみたいだよ。それでも見えそうで怖いというのなら……」

 聖は眼鏡のブリッジを人差し指でくい、と上げた。

「これで見えなくすることも可能かな」

「えええっ、眼鏡でっ?」

「それ、普通の眼鏡、ですよね……?」

「そう、普通の眼鏡。俺が自分自身に『見えない』と暗示をかける媒体にしているんだけど……試してみる?」

 シンとリィは、コクコクコクコクと何度も頷いた。



 かくして、しばらくの間橘邸では、シンとリィがお揃いの黒縁眼鏡をかけている姿が見られたという。

 効果があったのかは謎であるが。