「大体、今更なんで胸がドキドキするとか言うわけ? 霸龍闘を好きになったのなんて大分前じゃねぇのかよ」

 顔を逸らしたまま、機嫌悪そうにそう言うシン。

「そ、そうだけど──」

 リィは翡翠色の瞳を戸惑いに揺らす。何故恋をしたばかりのような症状が出ているのか、自分でも良く分からないようだ。

 言い合いを静かに見守っていた聖は、黒縁眼鏡の奥で目を細めた。

「まあ、そうだな。恋に落ちるのは一度だけじゃない、ってことかな」

 双子は揃って目をぱちくりさせた。

「好きになるのは一度だけじゃない?」

「……何度も?」

 こてん、と同じ方向に首を傾げる双子に、聖は頷く。

「そう、何度でも」

「同じ人に?」

「そうだな。惚れ直したって言葉があるけど、その人のことを知っていくうちに、いいな、と思うことが何度もあるんだよ。まあ、これは恋人に限ったことじゃなくて、家族や友人にも言えることだけれど。想いとか記憶とか、そういうものは積み重ねていくものだからね」

「……積み重ねる。……私の想いも」

「その想いが一時的に飽和状態になったから、今は少し苦しいのかもね」

「なるほど……」

「ほーわ?」

 納得したリィに対し、シンは首を傾げる。

「リィファちゃんの彼を想う気持ちが溢れてるってことかな」

 そう説明した聖に、リィはまた顔を赤くして俯いてしまう。

 しかしその後には自分の胸に両手を当て、何やら考えている様子。シンもその様子を見て、難しい顔で何やら考えている様子。

 悩める青少年を前に、聖は微笑ましそうに笑みを深めた。