「……ごめんなさい」

 シンは左頬をパンパンに腫らしながら謝った。

 その頭を押さえつけるようにして謝らせているリィの顔は羞恥で真っ赤になっている。

「いや、いいけどね。どこも悪くないのなら俺も安心だよ?」

 診療後、遠くから駆けつけたにも関わらず、聖は涼しい笑顔でそう言った。



 夕方、橘邸から連絡がきた。

『リィが胸が痛いって言うんだ! 苦しいって言うんだ! すぐ来て先生えっ、シルフでも治んないんだよ! たすけて、早くうううううー!』

 ……と、双子の兄からの切羽詰った声での電話に、聖は素早く患者を捌いて大急ぎで橘邸に駆けつけたのだが、待っていたのはシンを制裁するリィの姿。

 何事かと思いつつも2人の喧嘩を止め、じっくりと話を聞いてみるに、妹の病名は

『恋煩い』

 ……で、あった。

 最近、気になる彼と気になる事態があったらしく、それ以来、リィはちょっとおかしかった。

 大好きな本を逆さまに開いてぼーっとしていたり、時折顔を赤くしながら溜息を零してみたり、いきなりシンに抱きついて「はうううー」とか言ってみたり。

 おまけに胸がドキドキするとか、苦しいのはなんでだろうとか呟いたりするものだから、自他共に認めるシスコン兄、シンとしては、それはそれは心配になったわけである。

「シンのばか、シンのばか」

「しょうがねぇだろ、心配だったんだからよ!」

「シンは心配しすぎ……」

「妹を心配して何が悪いんだよ! 霸龍闘だって鬼龍が病気になったらこんくらいフツーに心配すんだろっ。瑠璃だってめのうや孔雀が病気になったら心配するし、龍之介だって咲花やシルヴィが病気になったら慌てふためいて泣き崩れるさ! 兄貴ってのはそういうもんだ!」

 自信満々にシンはそう言い、ふん、とか言ってリィから顔を逸らす。いや、兄貴が慌てふためいて泣き崩れたら駄目だろう、冷静に対処しろよ、という突っ込みは置いといて、確かに家族が病気になれば心配はする。その程度が若干違うだけで。