そんな2人も楽しみにしている拓斗の結婚式。

 その助力を乞われたのが、もう一人。



 見事な日本庭園を臨み、明るい陽の差し込む広い板間に姿勢良く正座して、絢爛な花を生けている品のいい老婦人がいる。

 少し前に開かれたお茶会の主催者、藤家当主の藤更紗だ。前述した通り、水琴の義理の母であり、琴音と玲音にとっては祖母となる。夫には数年前に先立たれ、少し寂しい身の上であるためか、橘家の者を頻繁に呼びつけている。

「まあ、拓斗さんが結婚。それはようございました」

 使用人からその報告を受けた更紗は、生けた花の位置を直しながら柔和に微笑んだ。

「でも随分急なお話ですのね。招待客の選出が一苦労です……。ふふ、祝い事の手数など、苦労の内には入りませんけれどね。奏一郎さんも律花さんもお忙しいのですもの、代わりに私がしないとねぇ」

 次の花を手に取り、花鋏で茎を切り落としながらふふふ、と笑う更紗。

「そうですね、和音さんのときほど大勢に連絡を差し上げることはないでしょう。本家の跡取りではないのですから、親戚筋だけでも良いくらいです。相手方は……喜屋武家ですか。そうですね……天神の大地主ですから、後ほどの連絡では手間ですね。やはり関係者も式に来ていただくよう、ご連絡差し上げて」

 使用人が頷くのを目の端に見ながら、更紗はそっと息をつく。