「お呼びでしょうか」

「Pホテルのスイートを手配してくれ。それから、チャペルも」

「はい。お客様のお名前は」

「拓斗だ」

「……拓斗くん、結婚するの」

 女性は拓斗の名前が出た途端、僅かに秘書としての姿勢を崩した。

「ああ。お前も呼ばれるだろうから準備を頼む」

「はい。招待客の人数はどのくらいでしょうか」

「百……といったところか」

 女性は頷いた。

「分かりました。では、お部屋はPホテル最上階プレジデンシャルスイートをご用意いたします。チャペルは新設されたクリスタルチャペルを」

「ああ」

 頷く青年に軽く頭を下げた後、女性はニッと笑みを浮かべた。

「……楽しみだね」

「ああ」

 青年もまた、女性に笑みを向ける。

 そこに漂うのは親しい者同士の気安い雰囲気。

 彼らこそ柊の当主夫妻だった。

 御三家筆頭、柊家当主にして柊グループ総帥、柊真吏(ひいらぎしんり)。そしてその妻、十夜(とおや)。

 柊はホテル事業に始まり、海運、鉄道、飲食、通信、教育等、様々な分野に手を広げる世界随一のグループであり、同じ宮家の傍流である御三家の中では突出した経済力を持つ。

 その家を纏めるのが、和音に似たサラサラの黒髪に黒い瞳、同等の体格だが童顔で、優男風の外見をしている柊真吏。

 無口な方であるので大人しいかと思いきや、態度が不遜で自分に厳しく他人にも厳しいところがあり、冷酷な人間に見られることもしばしば。

 それを支え、内助の功を果たしているのが妻の十夜。

 短い髪にスレンダーな体型、普段の口調がボーイッシュであるので活動的なイメージなのだが、主人の三歩後ろを歩くような控えめさを持ち、家では良き妻として、外では有能な秘書として、しっかりと真吏の背中を守っている。